*最優秀賞受賞者 寺脇早也加さん作品「夢から醒めて」
J2024年6月19日(水)から23日(日)まで、当財団主催第2回「 健康をめざすアート公募展」が東京都新宿区大京町12-9のアートコンプレックスセンター(ACT)で開催された。
2024年度の応募者は50名、力のこもった応募作品総数は59点で前年を上回ると同時に、首都圏だけでなく兵庫や新潟等地方からの応募もあり、注目度が昨年より増しているのを感じた。
会期中には7名の審査員による選考が行われ、最優秀賞1名、優秀賞と佳作は前回より1名ずつ増え、それぞれ3名が選ばれた。最終日23日14時過ぎからACTの会場で授賞式が行われ、最優秀賞の寺脇早也加さんと、佳作の長田智佐子さん、大竹夏子さんら3名が出席。会場にいた方々や出展者、スタッフから温かい拍手を受けていた。
◇受賞者と作品名
最優秀賞:寺脇早也加 「夢から醒めて」
優秀賞 :カミジョウミカ 「脳神経はどこへいく」
優秀賞 :ちろくろ 「金の魚群シリーズ ChapterⅢ」
優秀賞 :カモタオユコ 「バイタリティ」
佳作 :長田智佐子 「セルフハグ」
佳作 :くまぱぱ 「冬に在り春を想う」
佳作 :大竹夏子 「また明日」
■ 審査員
細井孝之 [健康院クリニック 院長]
内海信彦 [アーティスト/早稲田大学 研究員]
宮田徹也 [日本近代美術思想史研究]
村岡ケンイチ [アーティスト/医療とアートの学校 校長]
式田 譲 [The Artcomplex Center of Tokyo 館長]
山下美佳 [The Artcomplex Center of Tokyo アートディレクター]
宮島永太良 [一般財団法人 健康とアートを結ぶ会 代表理事]
(敬称略)
2024年2月29日(木)午後、宮島永太良は画友/住谷重光・美知江夫妻と共に二人の作品が長年展示されている小田原市の福井内科消化器科クリニックを訪ねた。今回は、宮島がその様子をレポートした。
◇宮島永太良が観た「アートギャラリークリニック」
神奈川県小田原市鴨宮の地には、画家の住谷重光さん・美知江さん夫妻の絵が常設されている福井内科消化器科クリニックがある。住谷さん夫妻の絵は2~3年という長いスパンで架け替えがされ、つい最近、その記念すべき架け替えが行われたばかりだというので、そのお披露目にうかがってみた。
JR鴨宮駅からバスで10分ほどのショッピングモール「ダイナシティ」の近くだが、その付近にクリニックらしき建物は見つからない。この日同行いただいた住谷さん夫妻に案内されたのは、クリニックとは思えない、ガラス板が連結した建物だった。自動ドアをくぐると、やっとクリニックらしい設えが見えて来る。
福井光治郎元理事長は早速、受付から私たちを迎えてくれた。
「このクリニックは入るところがわからないのが特徴なんです」とユニークに話す先生。
そして後ろを振り返れば、やはりクリニックとは思えないおしゃれな待合室空間とともに、重光さんの4点の絵が目に飛び込んでくる。海景画である。住んでいる大磯から、小田原方面の相模湾を描いたという重光さん。この部屋以外にも院内の要所、そして院長室にも住谷さん夫妻による絵が掛けられている。まさに「アートギャラリークリニック」といっても良い空間だ。
福井先生はもともとビルの中のクリニックで医療を行っていたという。美知江さんはその頃から懇意で、やがて夫妻でも交流するようになって35年というから、その絆は深い。
そして現在開業しているこの地にクリニックの建設が決まった時、福井先生は考えた。以前勤めていた病院では、診察室にカーテン一枚しかなく、中の患者さんが医師に話している内容が外に丸聞こえだったのを見て、「患者さんのプライバシーを守るべきだ」と、このクリニックでは診察室の入口と出口を分ける等の工夫を凝らしたという。
そしてまた、「病院の内部は殺風景」という観念を打破すべく「病院こそアート」という考えにいたった。この時は審美眼に優れている奥さんの存在も大きかったそうである。何しろ、設計段階からピクチャーレールの導入を考えたというから、その熱意は本物だ。こうして「クリニックにアートが必要」と考えた福井先生のもとに、「クリニックに絵を置いてみたい」と考える住谷さんの思いが運命のように伝わった。経済的な言葉に喩えれば、需要と供給が見事に一致したことになる。
では、患者さんの反応はどうなのだろうか。患者さんの中には「この絵はどこで買ったんですか」など質問する人も多くなってきたと言う。アートに興味がある患者さんが多いと思うだろうが、むしろ患者さん、お客さんの方この空間に慣れるうち、アートな目を持ってしまったのではないかとも思える。
今、アートを取り入れようとしている病院は、全国的にも増えてきている。
ここ福井内科消化器科クリニックはまさにそのはしりであり、地域の人たちも仲間にしながら、住谷さんのアートが「健康」に寄与している。
そんな、これからのあるべき医療環境の形が見て取れた。
(文:宮島永太良 撮影:関幸貴)
*先月からの続き
月刊宮島永太良通信編集部(以後Q):臨床美術を春陽苑で実践し、それに参加した方々やスタッフの反応はいかがでしたか?
田中裕一さん(以後A):臨床美術を行う以前は、僕は説明するだけで塗り絵や工作の手順、そして作品の完成も参加者皆一緒という流れでしたが、臨床美術は手順は一緒だけど、使う色が違うし工夫も必要、加えて僕が制作に参加することで皆がやりやすくなったように感じます。
Q:前は利用者様だけが作品制作していたのですか?
A:以前はこちらが説明をし、材料を提供して「これをしましょう」と指示だけを出していたのですが、今は一緒に考えながら制作を楽しめるので、参加した利用者様の笑顔がグンと増え、その様子を見守っているスタッフも興味を持ち、プログラム実施のフォローをしてくれます。
Q:臨床美術によって新たな根っこができ、成長している感じですか?
A:近い感覚です。最初、秋の体験会に参加した時は「臨床美術って簡単なんだ」と思いましたが、お茶の水に通って講座を受けたら、奥が深いことを痛感。だから、実際にやってみると臨床美術の奥深さを知らないと活動の成果を期待できないんじゃないかなと思いました。
Q:臨床美術が田中さん合っていた?
A:はい、僕のやりたいこと、そして性格にマッチしていたと思うし、臨床美術をこれまでの施設での美術的活動と比較すると格段に利用者様の反応は良くなっています。
Q:認知症予防の一助になりますか?
A:期待できると思います。一応、協会には実証データもあるようですが、こればかりは個人差もあり、全員に有効だとは言えません。とにかく臨床美術のプログラムを通して楽しんでいただくことが脳の活性化にはつながると思います。それが、結果的には認知症予防に繋がる可能性があるのかもしれません。
Q:利用者様の中で、実際に効果があったと思われる方はいらっしゃいましたか?
A:何名かは普段の活動意欲がちょっと高まっているのかなと感じられます。また、制作した作品を飾ってあるので、それを観て喜んでいる方もいて、少なからず変化は見られます。とにかく臨床美術以前も色々な活動を利用者様に提供してきましたが、今のように「またヤリタイ!」の声を聞くことはなかったし、「次はいつですか?」の声が上がるなど、参加者の活動意欲が高まっているのを肌で感じます。
Q:春陽苑でどんなペースで臨床美術を行なっているのですか?
A:いま僕だけしかプログラムに携われないので、そんなに頻繁にはできません。また、臨床美術に参加する利用者様の状況がそれぞれ違い、調整しながら行うので、目安としては、だいたい週一ぐらいのペースが理想です。
Q:次はカモタオユコさん誕生のお話をお聞かせください。
A:まず、臨床美術士の資格を取った時点で「健康とアートを結ぶ会」の公募展のお話があったので、臨床美術も突き詰めれば健康維持に繋がり公募のテーマとマッチすると考え、思い切って応募しました。作品制作に参加した6名が全員女性だったので、頭文字を組み合わせ、他にはなくて印象深い名前を考え、何パターンかを用意しましたが、カモタはいても、オユコはいないだろうなと考えて「カモタオユコ」と命名しました(笑)。
Q:優秀賞を受賞したカモタオユコさんの反応はいかがでしたか?
A:そもそも公募展に出したことを忘れていた方もいましたが、賞状を持ち帰り、皆さんに見せたらとても嬉しそうにして驚いていました。でも、共同制作だから、自分が作ったと自覚している方は少なかったかもしれませんが、6名にとっては良い思い出になったんじゃないでしょうか。
Q:田中さんご自身は受賞をどう受け止めましたか?
A:まず臨床美術が公募展のテーマに合致したのかなと思いました。余談ですが、展覧会が行われた銀座のミーツギャラリーには、順番で9名の利用者をお連れしました。皆さん、作品を観て楽しんでいました。その様子から制作した作品を春陽苑内だけで飾るのではなく、他のスペースに展示することにも意義があると思い至りました。つまり場所と飾り方で雰囲気がかなり変わる。だからこそ施設内だけではなく、作品を違う場所に飾るという目標を持って制作に励めば参加者のやる気がより増し、臨床美術の次の段階に進めそうな気がしたのです。
Q:最後の質問です。今後の展開についてはどの様にお考えですか?
A:春陽苑の臨床美術は6名から始まり、今では約20名が参加しています。だから曜日を分けながらの活動継続はもちろんですが、今年も開催される「健康をめざすアート公募展」をはじめ、様々な作品展への出品を目標に取り組んでいきたいと思っています。また、利用者様と銀座に行った際、作品展示を見るを楽しみにされていたのはもちろんですが、外出すること自体を喜ばれていたので、今後は近隣のギャラリーを借りて展示会を行い、利用者様の外出機会も増やして行きたいと思っています。
Q:まさに次の段階ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。
終わり
(取材日:2024年2月5日 場所:春陽苑 構成・撮影:関幸貴)
介護福祉士 臨床美術士
埼玉県出身
江戸川学園おおたかの森専門学校(旧:江戸川大学総合福祉専門学校)卒業
現職:介護老人保健施設 春陽苑 統括主任介護士
*記事中に出てくる「臨床美術」とは
臨床美術は、絵やオブジェなどの作品を楽しみながら作ることによって脳を活性化させ、高齢者の介護予防や認知症の予防・症状改善、働く人のストレス緩和、子どもの感性教育などに効果が期待できる芸術療法(アートセラピー)のひとつです。
(特定非営利活動法人日本臨床美術協会HPより)
健康とアートを結ぶ会(以後Q):「健康をめざすアート公募展」第1回優秀賞を受賞したカモタオユコさんは、介護老人保健施設 春陽苑で田中裕一さんが指導する臨床美術講座に参加し、受賞作「二人で描く線と色の抽象画」を制作した6名の頭文字から名付けられた名だと聴きました。今日はその経緯をお話しください。よろしくお願いします。まず最初に田中さんが介護福祉士になった動機を教えてください。
田中裕一さん(以後A):高校在学中に祖父が入院した際、祖母や看護師さんがケアする姿を見て、自分もそうした仕事に就きたいと思ったのが動機です。
Q:具体的には、看護師さんさんたちはどのようなケアをしていたのですか?
A:色々ありました。例えば祖父の髭が伸びていたのを祖母や父、看護師さんが剃ったり、顔を拭いてあげてるのを見ていました。でも、高校生の自分には何もできないなと思うともどかしかったので、将来はこうした環境で人の役に立ちたいと思い、介護福祉士の道を選びました。あの経験が一番大きな原動力になりました。また年上の従兄弟が介護の仕事をしていたので、その分野の情報が入ってきていたのも一因です。
Q:田中さんは優しい性格ですか?
A:極論かもしれませんが、優しくなければ介護福祉士は出来ないと思います。僕の場合は、人に何かをして感謝されるのが、エネルギーになっています。学生時代、それぞれが得意分野で勉強の教え合いをしたけれど、そうしたことが好きだったのも関係しているかもしれません。
Q:介護福祉士の仕事内容は?
A:利用者様の食事や入浴・排泄など身体介助や余暇活動の実施が主な仕事です、例えば、お昼を食べた後、時間があるのでレクリエーションしたり、僕が働く春陽苑はリハビリも行う施設なので、介護士ができるリハビリの提供もあります。
Q:実際に介護をしていてどうですか?
A:表現が難しい感覚的な問題ですが、僕は日頃から介護の仕事をしているのではなく、利用者様と一緒に遊んでいる感じでやっています。つまり利用者様とおしゃべりをしたりしてふざけあって楽しむことが一番の介護で、そこに食事とか入浴の介護がおまけでついている感じです。
Q:かなりユニークな発想ですね?
A:確かに一般的に捉えられている介護のイメージとは違うと思います。
Q:その田中さんの思いは利用者様にも伝わりますか?
A:はい、比較的笑顔で応じてくれます。機嫌が悪い方も少し話をすると自然に表情がほころんできますが、ただ意図的にやっているわけじゃありません。普段から僕自身が明るいキャラクターなので、その性格とやりたいことがマッチしているのだと思います。もちろん介護は大変な事もありますが、大変大変と思うと本当に辛くなるので楽しい所だけを記憶に残しています。
Q:良い意味でのテクニックですね。
A:そうかもしれません。とにかく嫌なことは次の日に忘れることにしています。まぁ、持って生まれた性格が良く作用していると思っています(笑)。
Q:そうした仕事の現場で臨床美術士になったのは何時ですか?
A:正式に資格取得したのが、令和5(2023)年の4月です。
Q:動機は?
A:資格取得の前年度2022年秋にここ春陽苑で臨床美術の体験会がありました。私以外にもいろんな部署から参加して実際に一つのプログラムを体験させてもらったら、それが楽しくて分かりやすかったのです。
Q:どんなプログラムだったのですか?
A:鉛筆で漢字をデザイン化するプログラムで、僕は好きな「金」の字を選びました。それで作品の出来上がりで自分自身の表現を簡単に表すことができたことが楽しかったし、臨床美術の特徴として作品制作後に鑑賞会と言ってお互いの作品を見て褒め合うと言うプロセスがあり、それがかなり良かった。褒められると人間誰しも嬉しいし、前に進める気がしたのです。そうであれば、認知症のご利用者様や高齢な方でも理解しやすいと思ったのが臨床美術士を志すきっかけです。苑長からやんわりと勧めもあったので、介護の仕事の一環として資格取得を目指しました。
Q:確認ですが、鑑賞会は褒め合うだけなのですか?
A:そう、褒めるだけです。作品の良し悪しを言うにではなく、描かれた内容や色など具体的に指摘しながら褒め合います。つい色んな作品があると見比べたくなりますが、それはなし。「全部素敵だよね」から始め、「色が綺麗、デザインが良い」それぞれに褒める言葉がけをします。だから失敗しても指摘されず、褒められるだけなので自己肯定感が高まります。加えてオトナになってからモノを作って褒められるのはそうそうないから心地良かったです。
Q:それまで施設で美術的な活動はなかったのですか?
A:いいえ、工作したり色塗りすることはありましたが、作ったら終わりでした。でも、その先にあったのが臨床美術だったのです。つまり、褒められるので次に挑みたくなり、意欲も出てプラスの連鎖が生じ、利用者様がより楽しめる環境になるのです。それを僕もしてみたかった。
Q:臨床美術士の講座は?
A:2023年の1月から3月まで隔週土曜日に1回6時間、月2回計6日間、東京のお茶の水で受講し、資格がステップアップ性なので、僕は最初の5級を取得しました。
Q:講義内容は?
A:講義の半分ぐらいが基本のプログラムの演習だったので、楽しかったです。でも臨床美術が始まった経緯から根幹について学びながら指導を受けたので、臨床美術の世界に対する理解が格段に深まりました。
続く
(取材日:2024年2月5日 場所:春陽苑 構成・撮影:関幸貴)
2023年は、一般財団法人「健康とアートを結ぶ会」(以後 当会)の活動がうまく展開できたんじゃないかと思います。5月中旬には愛知県名古屋市で開催されたプライマリケア学会会場の一角で行われた「医療とアートの学校」にも昨年の横浜に続いて出展でき、首都圏以外で当会のアピールができ、現地では医療関係者らから意見を聴く機会もあり良い経験になりました。そして、来年のプライマリケア学会は静岡県浜松市で催されるので、そこへも出展を予定しています。
さて、これから当会の2023年の主だった活動についてお話します。まず今春から、当会が毎週土曜日6:55からtvk(テレビ神奈川)で放映されているweather report(天気予報)の番組スポンサーになりました。これまでもマルタが出演していたこともあり、そのご縁ですが、初のスポンサーは記念すべきこと。それに伴い5月6日の放送からはメンバーがサファリパークDuoの琴音さんとユニークなパンノウタ楽団らに一新、晴天下の横浜大さん橋で撮影した「マルタとおどろう!スティールパン編」の素敵な映像が流れています。加えて番組のレコーディング等でもミキサーの河田為雄さんら新しい方々との出会いがあったのは大きな収穫でした。そして、週末の朝には視聴者の皆様にマルタの天気予報を見ながら、音楽に合わせて体を動かしていただければ、それが健康に通じると私は考えています。
次は6月初旬にACTで初開催された「健康をめざすアート公募展」についてです。まず当会で公募展は初めてのことだったので、作品が集まるかどうか一抹の不安がありました。春ぐらいはあまり状況も良くなく「集まらないのでは?」と心配しましたが、応募が少なかったら、それはそれだと思っていました。しかし、43名の作家による多彩な55作品が集まり安堵しました。
審査するためにACTへ行ったら、2つの会場に様々な作品が展示されていて、一見では、それらが「健康をめざすアート公募展」の作品とは思えませんでした。そして自分が審査員だと気付き、テーマも広義で甲乙つけ難い作品を目の前にした時にはどうやって選んだら良いのだろうと悩んでしまいましたが、熟慮した末、審査するにあたって自分が好きな作品ではなく、代表理事として「健康」を考えて選びました。難しさは他の審査員も同じだったのではないでしょうか。そして、作品を観ているうちに自分が共感できる点が分かってきた気がしました。加えて健康とは逆の視点から見ている作品が多かったように感じましたのも事実です。例えば、最優秀賞の吉澤幸子さんは「火傷」と言う疑似体験を通した作品だったし、中には入院していて初めて起き上がった時に見た光景を描いた作品もあり、やはり健康じゃないと活動できないと考えている人が多いかなと考えました。
それらのことから、今まで「健康とアートを結ぶ会」と言うと、医療と結びついていると考えている人が多かったのですが、必ずしもそうでないことが確信できました。以前から私自身で考えていたように「健康とアート」をもっと広く、もちろん医療も含め、より広い視野に立って「健康」を考えなければとならないと、第1回の公募展で再確認できました。そうした状況を踏まえ、当会の活動のこれからの柱は公募展になると考えたので秋には2024年に第2回を行うことを決めました。
また応募者の中から入選入賞者も含め新たな協力者を見つけることができましたし、最終的には「健康とアート」を考え、関心を持ってくれる多くのアーティストの方々の存在が分かり嬉しかったです。これは当会を立ち上げた時、周囲のアーティストに自作品を「医療施設や福祉施設に役立てたいですか?」と私が問うたら、ほぼ全員が「役立てたい」と答えた時と同じ感覚で「健康とアートを結ぶ会」は、これからの時代に必要な存在なんだと確信しました。
最後は「健康をめざすアート展 二人展」についてです。会場はミーツギャラリーですが、以前から考えている「健康アートミュージアム」を確立したいと言う考えからスタートさせました。6月中旬の 健康をめざすアート展「心と体に光を」は、若生ひとみさんとの二人展でした。「光=人の心を洗浄する、癒しの効果もある」と考え、若生さんと私の「光」は違うけれど根本的には共通点はあると考え、二人の「光」を同じ時空間で観ていただきたかったので開催しました。
11月のシモンさんとの「20 GAME 10」は、出会って20年を記念すると同時に彼が「健康とアート」に賛同してくれているので決め、二人の10年来の画友Yukakoさんにもゲスト出品してもらいました。シモンさんと私だと現代アートになってしまうので、タイトルにもあるGAME心を入れて作品展示、来場者が楽しみながらゲームをやってくれたので、現代アートが健康に役立ったなと実感。ちなみにタイトルの「20 GAME 10」が今回の傑作だとシモンさんが誉めてくれました(笑)。
来年の「健康をめざすアート展 」はどうなるか分かりませんが、住谷重光さんから出展者の候補も挙がっています。私との二人展がわかりやすいけれど、他の方との組み合わせもありかなと今は考えています。そして「健康をめざすアート展 」が「健康をめざすアート公募展」の応募者にとっての見本やモデルケースになるような存在になってくれたら嬉しいです。
(取材日: 2023年12月13日 構成・撮影 : 関幸貴)
1947:東京生まれ
1968:トキワ松学園女子美術短大(現:横浜美術大学)美学美術史科 卒業
2022:吉澤幸子展 〜青い海から、青い空へ〜 を京橋のギャラリイKで開催
2023:第1回 「健康をめざすアート公募展」作品「火傷」で最優秀賞受賞
宮島永太良(以後M):制作活動をされて、どのくらいになりますか。
吉澤幸子さん(以後Y):今から4年前(2019年)がはじめてです。アーティストの内海信彦先生と出会い、先生が早稲田大学で主催されている「ドロップアウト塾」から絵画研究会に内海信彦先生から、貴女のエネルギーを作品にして見てはとお誘い頂き
初めて絵画を描き先生に見て頂きました。その後ギャラリーKでグループ展や新人展に参加したのですが、その時がはじめての作品制作になりました。
M:それ以前にアートに対する興味、いつか制作してみたい、というような思いはありましたか。
Y:実は私の通っていた高校は美術史に力を入れている学校で、私が卒業する時に、美術短大を作りました。その時の短大の修学旅行は、ヨーロッパの美術館鑑賞旅行でした。その頃から多くの古典的作品を見る機会はありました。また海外に初めて行き、日本に戻りたくないと思うほど、海外に憧れました。しかし作品制作に関する知識は全くなく、子供の頃から絵は下手と思っていました。まさか今頃、絵画を制作するようになるとは思ってもいませんでした。
M:その時制作されたのは、どのような作品だったのですか。
Y:自分の身体に墨を塗り、そのまま紙に体を和紙にぶつけました。その時は特に、胸の部分に墨をつけて強調しました。かつて死産して、しばらく母乳が溢れて悲しい経験をしました。
M:いわゆる「人拓」のような作品になると思いますが、現代美術の世界でも時々見ることがありますよね。
Y:はい。でもその当時は現代美術の基礎知識はほとんどありませんでした。個展の時も「これはイブクラインだね」と言われたのですが、その時は恥ずかしながら有名な作家の名前も知らず、あとで画集などで確認した有様でした。
M:今回の公募展もそのタイプの作品を出品され、最優秀賞を受賞されましたが、タイトルが「火傷」でした。「火傷」をテーマに選んだのはどういう経緯からですか。
Y:実は私の作品から、大道あやさんを連想された方がいたのが始まりです。大道さんといえば、「原爆の図」の作者・丸木位里さんの妹さんで、実際に広島で被爆されました。絵本作家であり綺麗で美しい絵がほとんどですが、90歳を過ぎてからほんの数点だけ原爆の絵を残しています。それから「原爆の体験とはどんなものだろうか」と考えるよになったのです。偶然、友達の家族で爆発事故にあい、大やけどをした方がいて、いかに火傷との戦いが悲惨で大変である事を身近で知りました。おそらく原爆はその比ではないだろう。そう思って、せめて自分が原爆で被爆した気持ちになって、はじめて背中に墨を、しかも衝撃をあらわす赤の墨を塗ってイメージを作ってみました。その中の1点が、今回公募展に出品したものです。額に入れると規定の出展サイズを超えてしまうため、額装をしていないものから選びました。
M:かえって額に入っていなかったことが、目新しさと相まって、授賞に繋がったかもしれませんね。今回、最優秀賞を受賞されて、「健康」というものに対して何か考えられたことはありますか。
Y:私自身は今まで大きな病気にかかったことはないのですが、今回こうした公募展に参加するにあたり、「すべては体が健康でないとはじまらない」ということがあらためてわかったように思います。
M:病気や怪我といった面から健康を考えることで、その大切さが実感できるということですね。ところで吉澤さんは先日、先にお名前のあがった内海信彦先生主催の研修ツアーでポーランドに行かれたそうですね。
Y:はい。そこでは大変大きな影響を受けました。高校生、大学生の方々が中心で、そこに私たち社会人も何人か参加した形でした。今回のワークショップで、自分が得たものは何かを考えた時、大きく分けて、先生のコペルニクス生誕550年への個展の参加と、歴史上最も残虐で人間の本質を問われる独裁者による戦争の実態と残された証拠の数々を、この目で見た事だと思います。遠い国の物語ではなくなったのです。特にコルベ神父が死刑を宣告された捕虜の身代わりになった逸話については、大きく考えさせられました。人間は屈折したり、いろいろあると思いますが、究極の状態になった時、ヒトラーのようになるかコルベ神父のようになるかにかかっていると思いました。その中間で流されてしまう、というのが一番多いわけですが、やはり自分は何をすべきか、どう生きるかをもっともっと考えるべきだと認識しました。
M:吉澤さんにとって、世界で起こって来た悲劇、そしてその中に見る葛藤を昇華することで、現代を生きる人々へのメッセージを作品にしていると言えるでしょうね。ありがとうございました。
(取材日: 2023年8月23日 場所: Meets Gallery 撮影 : 関幸貴)